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対談 ふたつの青い鳥

世田谷シルク「青い鳥」演出 堀川炎  演劇集団円「青い鳥」演出 阿部初美

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演劇集団円と世田谷シルクが同時期に「青い鳥」を上演します。

演出の堀川炎さんに稽古場見学をしていただき、阿部初美との対談を行ないました

 

堀川 この「青い鳥」という作品、テキレジが難しかったと思うんです。私はどこをカットするかをすごく悩んで。そういう時に、今回、子ども向けに作られたというところで、阿部さんはどういう風にテキレジをされたのかなと興味がありました。

阿部 そうですね。やっぱり外せない大きな場面は、ほとんど残しました。チルチル・ミチル兄妹にとって、ひとつの場面にひとつの何かしらの学びがある。だから必要最低限あればいいセリフ、これだけあれば話はわかるというものを選びました。でもそれだけにしてしまうとあまりにも骨だけになって、ただのあらすじになってしまうので、それにやっぱり残さなくてはならないセリフを、切ったり復活させたりを結構、繰り返しやりましたね。

堀川 なるほど。今日見せていただいた稽古は割と何回か書き直しをされているということなんですね。

阿部 これでもまだ予定の上演時間をオーバーしているので、まだカットしようとしているんです。(笑)

堀川 80分でしたっけ。

阿部 80分という枠を条件にしています。

堀川 そうですよね、この作品を全編やろうとすると長くなってしまって。 私も散々カットしたんですけれど、いま2時間半弱になっています。2時間以内に収めるのには一体どうしたらよいかすごく考えているんですが、今日の通しを観ていて、やっぱりこのセリフはあったほうがいいなと思う気づきがたくさんありました。

阿部 よかったです、お役に立てて。セリフはすべて残しました?

堀川 そうですね、結局残してやっているんですけれども、私は堀口大学訳をベースにして、わからないところなどは原作のフランス語版を調べながらやっているんです。訳も人によってまちまちじゃないですか。だからそういうのを

見比べている最中です。とにかく最初に引っかかってしまったのが、「魔女」という単語なんです。これを私たち(世田谷シルク)では「魔女」にしているんですけれど、(円は)魔法使いにしていましたね。原文だと妖精なんですよ

日本語に置き換えるのかが難しくて。今日の「魔法使い」はなるほどなって思って。

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阿部 子どもたちにわかりやすい言葉っていうところで選びました。おばさんかおばあさんかは、いまだに統一が取れていないんですけど。

堀川 このベリリュンヌっていう登場人物も、すごく子ども達にわかりやすいキャラクターだと思っていて。

私たちの方は結構、怖くしていて、奇妙な感じにしているんですけれど。

子ども達が本当に冒険に行くだろうなっていう感じというか、なぜ冒険に行くのかっていう動機を探すのが難しいところをああいう感じで演じると、そこにすごく説得力が生まれますね。

阿部 こどもステージっていうところで、すごく注意しなきゃいけないことが色々あって、ひとつはあんまり怖くならないようにと。だから、ちょっとユーモラスなところを残したり。

少しちいさなこどもたちだと、例えば森の人たちの姿だけでも、怖くて大泣きしちゃうなんてことがたぶんあるだろうと想定されるので、できるだけ怖いところも、怖さの加減をかなり注意しながら作っています。

堀川 チルチルのダイヤモンドが付いているあの帽子は、きっと子ども達は真似するだろうなって思って見ていました。子どもがもし何か帽子についていたら絶対回してみるだろうなって。その辺りが良かったですね。

セリフがほぼ全く一緒なのに、演出でこれだけ変わるっていうのは、大きいですよね。作品の幅があるっていうか。

阿部 そう、そう、幅がある、すごく。すごく幅がありますね。

堀川 そういった意味でも唯一、「夜の御殿」の場面は、世田谷シルク版とすごく演出が似ているシーンなんです。そういう風に全く似ているところもあれば、他のところはまた違ったりしていて。

阿部 あそこはね、白いロッカールームの装置なんですけれど、ドライアイスやスモークが出てくるとか。

子どもが飽きないように仕掛けを色々。真っ白いロッカールームを開けていく。それも現代的なカードキーを使って開けていく。結構円版では現代に置き換えているんですけれど、どうですか?

堀川 うちもそうなんですよね。そちらはテレビが出て来たので、そうか、こういうやり方があるんだなと思って。良いなあと思いました。

阿部 似ているところもあるということは割とテキストは残して創っている感じなんですね。

堀川 メーテルリンクの言葉を使って、あとは演出でどれだけ変えていけるのかなっていうのを目的にしていますね。私はオペラに興味があって、稽古場についたりもしているんですけれど、オペラって絶対に言葉とか曲を変えちゃいけなくて、とにかく作家・作曲家の作ったものを最大限に尊重して演出だけ変えてやるっていうスタイルなんですね。私、それはすごく良いことだと思っていて。とにかくニュアンスや内容が極力変わらないようにして、それ以外のところを変えていけたら良いかなと思って今はやっているんですけれど。

阿部 なるほど。音楽とかはあるんですか?

堀川 はい、音楽はうちも作ってもらっていて。でも、歌とかはほぼないです。ちょっとあるんですけれど、このお芝居みたいに、俳優さんが歌うことはしっかりとはしないです。

阿部 やっぱり歌があると子どもも楽しめる。飽きさせない工夫のひとつなんです。長いセリフは聞いていられない。やっぱり音楽が入ってくると子どももしっかりと舞台を見ると思うんです。最初は歌なしで考えていたんですけれど、やっぱりこれはもたないだろうなって。それとあともう一つは歌にすると伝えやすい。

堀川 そうですね。猫と犬のそれぞれのスタンスが違うっていうところが歌で対比されるじゃないですか。すごくわかりやすくて。あれは面白いですね。

阿部 あと私たちは映像を使っていくっていうのが特徴的です。映像は使うんですか?

堀川 映像は使わなくて、影絵を使おうとしています。それで色々表そうと思っているんですけれど。映像はわかりやすいですよね。

阿部 でも円のこどもステージで映像を使うって、すごい批判もあったんですけれど。テレビとか見ているから生のものを見せるのが良いんだという考え方もあって、それはそれでひとつの考え方でいいと思うんです。でも、私がずっと大人

の劇を作ってきたときに、表現の方法としてほとんどの作品を映像入りで作ってきたこともあって、子どもの舞台だからといって使わないのはすごく抵抗があったんです。いつもの感覚なら映像が入るよなって。それで映像を入れているんで

すけれど、その辺がわかってもらえるかなぁって思っています。大人は結構、映像が入っていても全然平気なんだけれど、子どもの舞台っていうと根強くあるんですよね。映像を見るんだったらテレビでいいじゃないかみたいな。

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堀川 演出にはいろんなアプローチがあるから、どんな方法でも試してみたらいいですよね。

阿部 私は一応現代劇でやってきたので、現代劇ってこういう表現もあるんだよっていうことを体験してもらえたらいいなと。例えば「タンツテアター」だって演劇とダンスで、メディアミックスみたいになってきていますよね。現代劇としての「青い鳥」を新しく体験してもらえたら良いかなあと思って。そういう風に見てもらえたら嬉しいですね。

堀川 そうですよね。主人公がきこりの子で、貧乏で、隣のお金持ちの家のクリスマスを羨ましがるところから始まるじゃないですか。それをどういう風に、いまの子達とか、いまの観る人たちに親和性を持って届けられるかっていうのが、今のこの時代にやるんだったら大事なことだと思うんです。

阿部 現代化することで新たな意味が見えてくるみたいなことがあるんじゃないかなと思って。「幸福の楽園」のところのご馳走を食べる国、あそこをやってみたら意外なことにバラエティだな、これは!と思って。バラエティ番組やYouTubeとか、いまの子どもたちは、ものすごく見てるから、大好き。いっぱいお菓子や食べ物があるとかも。そういうものにものすごく憧れていて。私の子どももそうなんですけれど。(笑)

ああこれはバラエティと子どもたちなんだっていうことが、いまの時代に上演する新たな意味が稽古をやってみることで突然見えてきたりなんていうこともあって、びっくりしています。それは予期していなかったので。歌ったりしているってト書きにも書いてあるから、カラオケボックスで撮影するぞということになって、やりだしたら、そうかこれバラエティなんだって。それに憧れていく子どもたちっていうことなんだなって。

堀川 あれはすごかったですね。

阿部 物質的な快楽を追求して行こうとすると、書かれた時代も、いまの時代も考える事は本当に変わっていないというか、やってみて古いなという感じが全然しなかった。

堀川 何かに置き換えられて、今でも全然通じるものがありますよね。この作品は永続的なテーマなので、私はどんな時代にでも上演できればいいと思っているんです。1908年の初演ですけれど、色々な団体がコンスタントに上演していて、かつ演出が色々あって、解釈もあって。そうやってずっとやり続いていったらそれはそれで面白いことだなと感じているんですね。社会的背景は、個人的にこじつければできるんですけれど、どちらかというと、いつでもできたらいいなってシンプルに考えています。

もうひとつは、私の愛着としてなんです。私は山の手事情社に研修生としていたことがあって、その時に関わったのが「青い鳥」だったんです。初めてプロの現場に関わったのがそれだったので、ずっとやりたいなと思っていて十何年来ちゃった感じなんですけど。きっかけはそういった些細なことではありますね。

阿部 やっぱり作品として魅力があるから、いつでもやってみたいなっていうのはありますよね。

堀川 あと、演出のしがいがあるだろうなというのも もちろんあって。いろんな世界が出てくるので、それをどうやって表現できるかなと思ったのがありますね。

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阿部 私もどういう話だったんだろうって読み返してびっくりして。もうこんな素敵な世界があるんだなって思って、子どもと一緒に読んでいて、子どももものすごく面白がって、読み終えるともう一回最初から読むって。それくらい惹かれていったんです。「未来の国」での生まれてくる子どもたちが希望、病気や罪、色々なものを持って地球に旅立つ。みんなが一様にあるっていうのがね、すごく素敵だなって思って。

今だって、暗い社会だから、何しに生まれて来たのかなとか、捕まるために罪を犯したとか、生きる意味みたいのものがちょっと見えにくくなっていたり、幸せってなんだろうと考えることが難しくなっている世の中で、「青い鳥」という作品から自分は何をしにこの地球に来たのか、みんなで考えてみる時間を作れたらいいなと。自分にとってものすごくそれがすごく励みになったというか、癒しになったというか。子育ての苦しさもちょっと忘れさせてくれるとか、それを乗り越えて、それでも生きることを選択して来たんだって風に肯定できるんです。

堀川 そうですね。円さんの「未来の国」の王国の後に差し込んである部分がすごく印象的で。あそこで急に不意打ちで泣かされそうになるっていう。

阿部 あの場面は俳優が、俳優に戻るんですけれど、もっと言えば地球に生まれて来た一人に戻るというのかな。お客さんも、俳優とお客さんという立場を超えて地球に生まれて来た一人として、何しに来たのかなってメーテルリンクからのメッセージに一人一人答える時間、考えてみる時間っていうのを創りたかった。

観ている子ども達も自分は何しに地球に来たんだろうっていう、大人達がいる中で子どもにも一緒に考えてもらいたいし、大人にも考えてもらいたい。自分ももう大人になってしまったけれど、何かしに来たんだって思えるように創っています。

堀川 私たちの作品では、パンとか砂糖とか「モノ」の精霊も全部出てくるんですけれど、最初に登場したときに彼らは、ベリリュンヌに旅が終わったら死ぬよって言われる。だけどその死ぬの意味が、どうも精霊ごとにちょっとずつ違うようなんです。猫が夜の御殿で言う死も違うし、パンがお別れの時に演説する死も少し違う。じゃあ、死って一体なんなんだろうって思えてきて。今、稽古場ではそれが一番話題になっています。それぞれ「モノ」の精霊の捉え方が違うねって。作品をよくよく読んでいると、幸せが実はすぐ隣にあったと言うのがテーマと同時に、「生と死の意味」っていうのが、もう一つのテーマなので、その生と死の意味ということにうちは焦点を当てて、「モノ」が死ぬっていうというのをどういう風に捉えているか、もっと言うと私たちが死ぬっていうことをどう捉えるのかっていうことをメインのテーマとしてやっているんです。

もちろんちょっとダンサブルというか、大勢でのパフォーマンスを観てもらうというのもあるんですけれど、内容としては、そこを一番観て欲しいところかなって思っています。

                          (2019年12月10日 三鷹円稽古場にて)

記事を最後までお読みいただきありがとうございます。

公演の半券持参で、なんと割引となります!

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世田谷シルク「青い鳥」2019年12月25日[水]ー28日[土] シアタートラム

公演情報 https://www.setagaya-silk.com/

★演劇集団円「青い鳥」の半券(全券)ご持参の方には、一般4200円→3900円

 

演劇集団円「青い鳥」2019年12月21日[土]ー27日[金] シアターX 

★世田谷シルク「青い鳥」の半券(全券)ご持参の方には、指定席4500円→4200円

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